高校時代、私は陸上競技に打ち込む中で出会ったトレーナーの勧めから、「鍼灸」の道に進むことを決めました。
競技に関わり続けたい、その思いで大学で鍼灸を学び、卒業後は東京の鍼灸接骨院で鍼灸師として働き始めました。
しかし、次第に自分の理想としていたキャリアとの間にギャップを感じるようになり、退職。
その後、ご縁があって静岡の介護施設病院で鍼灸師として再出発することになりました。
そこでは、寝たきりの方や重度の身体的制限を抱えた方々と向き合いながら、お灸を使った施術を続けていました。
便秘や頭痛、睡眠障害といった症状に、特に効果を実感してきました。
とくに高齢の利用者さんたちが「子どもの頃は家でよもぎのお灸をしていたよ」と懐かしそうに話してくれたことが、私の心に深く残りました。
そこから私は、お灸、そして「よもぎ」についてより深く調べはじめます。
その中で知ったのが、国産よもぎの減少という現実でした。
かつて日本の暮らしに深く根ざしていたよもぎは、いまや製造工場の減少や流通の変化により、海外産への依存が進んでいます。
このままでは、日本の伝統である“よもぎ文化”が失われてしまうかもしれない――
そんな危機感が、私の中に芽生えました。
ちょうどその頃、祖母が亡くなり、長野県諏訪にある祖母の家が空き家となりました。
高齢化と耕作放棄地が進む地域を前に、私は決意しました。
「ここで、よもぎを育てよう。日本のよもぎ文化を守り、広げる活動を始めよう」と。
現在、私は諏訪の地で国産よもぎを栽培しながら、
よもぎ湯・よもぎ茶・お灸などを通じて“よもぎのある暮らし”を提案しています。
よもぎは、単なる植物ではありません。
身体をあたため、香りで心をほどき、暮らしに寄り添う、日本の知恵です。
私たちの活動を通して、
よもぎの優しさと力強さ、そしてそれを暮らしに取り入れる豊かさを、日本に届けたいと思っています。